「内歯車を作りたいが、ブローチ盤がない」「特殊なスプライン形状でブローチ工具が存在しない」「焼入れ後の硬い材料にスプラインを加工したい」——こうしたケースでは、放電加工が有効な解決策となります。
この記事では、内歯車やスプラインの加工方法を比較し、放電加工がどのような場面で選ばれるべきかを解説します。
内歯車・スプライン加工の一般的な方法
①ブローチ加工
専用のブローチ工具を穴に通して引き抜き、一度のストロークで歯車形状を創成する方法です。
- メリット:高速で量産に最適。高精度
- デメリット:専用ブローチ工具が高額(1本数十万〜数百万円)。標準規格外の特殊形状には使えない。止まり穴(袋穴)には不可
②ギヤシェーパー加工
ピニオンカッターを上下に往復させながら、ワークと同期回転させて歯を創成する方法です。
- メリット:内歯車のほか、段付き穴の歯車にも対応可能
- デメリット:加工速度が遅い。焼入れ後の高硬度材には使えない。微細な歯車には限界がある
③放電加工(ワイヤー放電 / 形彫放電)
ワイヤー放電加工でプロファイル(歯車の輪郭形状)を切り出すか、形彫放電加工で電極形状を転写する方法です。
- メリット:硬度に関係なく加工可能。専用工具が不要。特殊形状にも対応。小ロット・試作に最適
- デメリット:大量生産ではブローチに劣る速度。貫通穴が前提(ワイヤーの場合)
放電加工が選ばれる5つの場面
場面①:焼入れ後の高硬度材にスプラインを加工したい
焼入れ鋼(HRC50以上)や超硬合金への歯車・スプライン加工は、ブローチもギヤシェーパーも対応困難です。放電加工ならHRC60以上の焼入れ鋼でも問題なく加工可能です。熱処理後に追加工が必要になったケースで多く利用されます。
場面②:ブローチ工具が存在しない特殊プロファイル
標準的なインボリュートスプラインやキー溝であればブローチ工具が市販されていますが、特殊な歯形、非標準のモジュール、独自設計のプロファイルにはブローチ工具が存在しません。放電加工ならCADデータから直接加工プログラムを作成できるため、どんなプロファイルでも対応可能です。
場面③:止まり穴(袋穴)の内歯車
ブローチ加工は穴を貫通させる必要があるため、止まり穴の内歯車には使えません。形彫放電加工であれば、止まり穴(袋穴)の内歯車・スプラインも加工可能です。ただし電極の製作が必要になります。
場面④:試作・少量生産
数個〜数十個の少量生産では、ブローチ工具を製作するとコストが見合いません。放電加工は専用工具が不要のため、1個からでも経済的に対応できます。
場面⑤:微細歯車
モジュール0.3以下の微細な歯車は、ブローチやギヤシェーパーでは物理的に工具の製作が困難です。ワイヤー放電加工であれば、ワイヤー径0.05mmの細線を使用して微細歯車のプロファイルを高精度に切り出せます。
ワイヤー放電 vs 形彫放電|歯車加工の使い分け
| 条件 | ワイヤー放電加工 | 形彫放電加工 |
|---|---|---|
| 貫通穴の歯車 | ◎ 得意 | ○ 可能 |
| 止まり穴の歯車 | × 不可 | ◎ 得意 |
| 精度 | ◎ ±0.01mm以下 | ○ ±0.01mm |
| コスト(小ロット) | ◎ 電極不要で安い | △ 電極製作費がかかる |
| コスト(リピート) | ○ プログラム再利用 | ○ 電極再利用 |
| 逃げ溝の要否 | 不要(ワイヤーで貫通切断) | 不要(放電で底部まで加工可能) |
放電加工で歯車を依頼する際に伝えるべき情報
- 歯車の緒元:モジュール、歯数、圧力角、転位量、噛合い長さ
- 図面またはCADデータ:歯車のプロファイル形状(DXF推奨)
- 材質と硬度:特に焼入れ済みかどうか
- 穴の形状:貫通穴か止まり穴か。止まり穴の場合は深さ
- 精度要求:歯車精度等級(JIS B 1702-1準拠)またはプロファイル公差
- 数量とリピートの有無
旋盤・ブローチで行き詰まったときの選択肢
スプライン加工や内歯車の加工を検討していて、「旋盤ではできない」「ブローチ工具が無い」という壁にぶつかった方向けに、そこから先の選択肢を整理します。すでに工法を試して失敗した後でも、対応できる場合があります。
旋盤ではスプラインが削れない理由
旋盤はワークを回転させて刃物を当てる機械です。丸い断面を作るのは得意ですが、スプラインのように円周上に等間隔の溝を刻む形状は、原理的に旋盤の運動だけでは作れません。
一部の複合旋盤には回転工具(ミーリング機能)が付いており、簡易的な溝入れができるものもあります。ただし、
- 歯形の精度がスプライン規格を満たさない
- 焼入れ後の材料には工具が負ける
- 止まり穴(袋状)の内側には工具が届かない
という制約があり、実用的なスプラインを旋盤だけで仕上げるのは困難です。「旋盤 スプライン加工」で調べて手が止まっているなら、工法そのものを変える段階に来ています。
ブローチが使えない3つのケース
| 状況 | ブローチ | 放電加工 | 理由 |
|---|---|---|---|
| 工具が存在しない特殊形状 | 不可 | 対応可 | ブローチは形状ごとに専用工具が必要。特注すると数十万円〜と納期がかかる |
| 焼入れ後の高硬度材 | 不可 | 対応可 | ブローチ工具が負ける。放電加工は硬さの影響を受けない |
| 止まり穴(貫通していない) | 不可 | 対応可 | ブローチは押し抜く工具なので貫通が前提。形彫放電なら底のある形状も彫れる |
| 試作・少量(1〜10個) | 割高 | 有利 | 工具代が数量に乗るため、少量ではブローチが不利になる |
| 大量生産(数百個〜) | 有利 | 時間がかかる | 数が出るならブローチのほうが速く安い |
「工具が無い」「焼入れ済み」「止まり穴」のいずれかに当てはまれば、放電加工が現実的な選択肢になります。逆に、標準的な歯形で貫通していて数百個作るなら、ブローチのほうが適しています。当社はブローチ加工は行っていませんが、どちらが適しているかの判断はご相談いただけます。
よくある行き詰まり方と、その後の進め方
特殊な歯形や、規格外のモジュール・歯数の場合に起こります。ブローチは形状ごとに専用工具が要るため、既存工具に無い形状は作れません。
電極を形状に合わせて製作するので、工具が存在しない形状でも対応できます。図面があれば、そのまま加工できるか判断します。
熱処理による変形はよくある問題です。ただし焼入れ後の材料は硬く、切削工具では修正できません。
硬さに関係なく加工できるため、焼入れ後の修正が可能です。作り直すより費用も期間も抑えられます。
ブローチは押し抜く工具なので貫通が前提、ワイヤー放電も糸を通すため貫通が必要です。止まり穴は多くの工法で対応できません。
形彫放電加工は底のある形状を彫れます。深さを指示していただければ、その位置まで加工します。
ブローチ工具の特注費が1個の部品に全額乗るためです。試作段階ではよく起こります。
電極製作は必要ですが、専用工具より安価に済むことが多く、1個からの製作に向いています。量産に移る段階でブローチへ切り替えるという進め方も可能です。
よくあるご質問
スプライン加工にはどんな方法がありますか?
内側のスプラインを加工する主な方法はブローチ加工・ギヤシェーパー加工・放電加工の3つです。数百個以上をまとめて作るならブローチが速く安価ですが、形状ごとに専用工具が必要になります。
放電加工は電極を形状に合わせて作るため、専用工具が存在しない歯形でも加工でき、1個からの製作に向いています。旋盤では円・円錐といった回転対称の形状しか作れないため、円周上に等間隔の溝を刻むスプラインは原理的に加工できません。
焼入れした後の部品にスプラインを追加できますか?
できます。放電加工は硬さの影響を受けないため、焼入れ後の高硬度材でも加工できます。切削工具やブローチでは刃が負けてしまう領域です。
熱処理による変形を後から修正したい場合も同様に対応できます。作り直すより費用も期間も抑えられるケースが多いため、変形が出た段階でご相談ください。
止まり穴(底のある穴)の内側にも加工できますか?
形彫放電加工であれば可能です。ブローチは工具を押し抜く加工、ワイヤー放電加工は糸を通す加工のため、どちらも貫通していることが前提になります。
形彫放電加工は電極を彫り込んでいく方式なので、指定の深さで止められます。止まり穴の内歯車・スプラインで加工先が見つからない場合は、この工法が選択肢になります。
ブローチ屋に「工具が無い」と断られました。対応できますか?
対応できる場合が多くあります。断られる理由の多くは、特殊な歯形や規格外のモジュール・歯数で既存のブローチ工具に合うものが無いためです。特注すると工具代が数十万円規模になり、納期もかかります。
放電加工では電極を形状に合わせて製作するため、工具が存在しない形状でも加工できます。図面をお送りいただければ、加工の可否と費用をご回答します。
1個だけの試作でも依頼できますか?
1個からお受けしています。ブローチは工具代が数量に乗るため少量では割高になりますが、放電加工は電極製作のみで済むため、試作や少量生産に向いています。
試作は放電加工で、量産段階に入ったらブローチへ切り替えるという進め方も可能です。どちらが適しているかの判断からご相談いただけます。
依頼するときは何を伝えればいいですか?
図面があればそのままお送りください。図面が無い場合でも、現物の写真やスケッチ、相手部品(かみ合う軸など)があればご相談いただけます。
あわせて材質・熱処理の有無・必要な精度・数量・希望納期をお知らせいただけると、初回の回答で費用と納期までお伝えできます。お見積りは無料です。お問い合わせフォームからご連絡ください。
まとめ
内歯車やスプラインの加工は、大量生産であればブローチが最適ですが、少量・試作・特殊形状・高硬度材・止まり穴の条件では放電加工が最も合理的な選択肢となります。
当社ギャップ・イーディーエム(GAP.EDM)では、内歯車・スプライン・六角穴など、止まり穴の特殊形状加工を数多く手がけています。「この形状は放電加工できるか?」というご質問だけでもお気軽にどうぞ。

放電加工とは何か?基本原理から種類・メリット・用途まで初心者にもわかりやすく解説。形彫・ワイヤー・細穴の違いも紹介。
放電加工ひとすじ40年。超硬・インコネル・チタンなど全材質を量産対応。複数台体制で供給を止めず、NDA・加工データ提出にも対応します。図面1枚から、最短即日でお見積りします。


