放電加工の時間は、面積と体積で決まる。
ワイヤーカットは切る面積、形彫は彫る体積、細穴は穴の数。計算の式と道具をまとめました。
放電加工は、刃物で一気に削る加工ではなく、小さな放電を1秒間に何万回も繰り返して、材料を少しずつ溶かし取る加工です。そのため加工時間は、取り除く量にほぼ比例して延びます。ワイヤーカットなら切る面積、形彫放電加工なら彫る体積、細穴放電加工なら穴の深さと数で、おおよその時間を見積もれます。この記事では、それぞれの計算の式と、自分の機械の値を入れて試せる計算の道具、厚物や深い彫り込みで時間が延びる理由、時間を短くする図面の工夫をまとめました。当社は愛知県尾張旭市の放電加工の専門工場で、厚さ300mm近いワイヤーカットや、大きな型の深い彫り込みのような、時間のかかる加工をお受けしています。
- 厚さ300mm近いワイヤーカットの実績
- 形彫放電加工機7台
- 土曜・祝日も稼働
加工時間の計算(ワイヤーカット・形彫・細穴)
数値を変えると、その場で計算します。時間は機械を動かしている時間の目安で、段取りの時間は含みません。式の中身は、このあとの節で一つずつ説明します。
ワイヤーカット
切る長さ×板厚÷加工速度。仕上げの回数ぶん時間を足します。
形彫放電加工
彫る体積÷除去速度。仕上げは別に時間を足します。
細穴放電加工
深さ÷穴あけの速さ×穴の数。穴ごとの位置決めの時間も足します。
初期値は、計算の流れを示すための仮の値です。加工速度・除去速度・穴あけの速さは、機械・材料・電極・条件で大きく変わります。お使いの機械の値か、実際に加工した記録の値を入れてください。段取り(据え付け・位置出し・電極の準備)の時間は含みません。
ワイヤーカットの加工時間は「切る面積」で決まる
ワイヤーカットは、上下に張った細い金属の線(ワイヤー)と材料の間で放電させ、糸のこのように輪郭に沿って切り進めます。ワイヤーは板厚の方向に通っているので、1分間に進める距離は、板が厚いほど短くなります。そこで、ワイヤーカットの速さは「1分間に切れる面積(mm²/分)」で表します。切る面積は、切る長さと板厚の掛け算です。
荒加工の時間(分)= 切る長さ L(mm)× 板厚 t(mm)÷ 加工速度(mm²/分)
仕上げ(セカンドカット)を行う場合は、その回数ぶんの時間を足す
たとえば、1辺100mmの正方形(切る長さ400mm)を、板厚100mmの材料から切り抜く場合、切る面積は40,000mm²です。仮に加工速度を1分あたり100mm²とすると、荒加工だけで400分、約6.7時間かかります。同じ形を板厚300mmで切れば面積は3倍の120,000mm²になり、荒加工だけで約20時間です。実際には、厚い材料ほど加工の条件が厳しくなるため、時間は単純な比例より延びることがあります。
カタログの加工速度は、最もよい条件での値です。機械のカタログには「最大加工速度」が書かれていますが、これは特定の材料・板厚・ワイヤー・加工液の流し方での最高値です。実際の加工では、材質や形、求める精度に合わせて条件を選ぶため、カタログの値より遅くなるのがふつうです。見積りに使うなら、同じような材料と板厚で実際に切った記録の値が確かです。
ワイヤーカットの時間を左右する7つの要素
| 要素 | 時間への効き方 |
|---|---|
| 板厚 | 切る面積が板厚に比例して増える。厚くなるほど加工くずが抜けにくく、ワイヤーも振れやすくなるので、速さを落として切ることがある |
| 材質 | 材料によって切れる速さが変わる。超硬合金のように放電で取りにくい材料は、鋼より遅くなりやすい |
| 仕上げの回数 | 面を細かく、寸法を正確にするほど、荒加工のあとに輪郭をなぞる仕上げ(セカンドカット)の回数が増える |
| ワイヤーの太さ | 細いワイヤーは小さな角や細い溝を切れるが、流せる電気が小さく、速さは落ちる |
| テーパーと上下異形状 | ワイヤーを傾けて切る形は、加工液の流れが悪くなりやすく、速さを抑えることが多い |
| 加工液の当たり方 | 材料の上下に段差があったり、ノズルを材料に近づけられなかったりすると、加工くずが抜けにくく遅くなる |
| スタート穴 | 輪郭が材料の内側にある場合は、先にワイヤーを通す穴を細穴放電加工などであける時間が加わる |
厚物のワイヤーカットに時間がかかる理由
板厚が増えると、切る面積が増えるだけでなく、加工そのものも難しくなります。ワイヤーを支える上下のガイドの間隔が広がるため、ワイヤーがわずかに振れたりたわんだりして、まっすぐな面を出しにくくなります。板の中ほどまで加工液が届きにくく、加工くずがたまると放電が不安定になります。そのため厚物では、条件を落として慎重に切り進め、加工時間はさらに延びます。
切る面積が増える
同じ形でも、板厚が2倍になれば切る面積も2倍です。時間はそれに比例して、少なくとも2倍になります。
まっすぐ切りにくい
ガイドの間が広いほどワイヤーが振れやすく、上と下で寸法がずれたり、面の中央がふくらんだりしやすくなります。
加工くずが抜けにくい
板の中ほどまで加工液を通しにくく、くずがたまると放電が乱れます。速さを落とし、断線を防ぎながら切ります。
当社のワイヤー放電加工機(FANUC α-1iB)は、Z軸300mmまでの材料に対応し、厚さ300mm近い材料を切った実績があります。厚物の加工は、一度材料を据えて位置を出したら、長い時間をかけて切り続ける仕事です。社内の機械でこれを受けると、その間ほかの仕事が止まってしまうため、外注に向いた加工の一つです。
形彫放電加工の時間は「彫る体積」と「仕上げ」で決まる
形彫放電加工は、製品の形を写した電極を材料に近づけ、放電で材料を溶かしながら電極を沈めていく加工です。加工時間の大部分は、取り除く体積を、どれだけの速さで取れるか(除去速度・mm³/分)で決まります。ただし、荒加工で大部分の体積を取ったあと、面を細かくする仕上げの工程は、取る量が少ないのに時間がかかります。
加工時間(分)= 彫る体積(mm³)÷ 荒加工の除去速度(mm³/分)+ 仕上げの時間
彫る体積は、おおよそ「彫る面積 × 深さ」。形が複雑なら、3Dデータから体積を求める
たとえば、50×50mm(2,500mm²)の形を深さ30mm彫る場合、体積は75,000mm³です。仮に荒加工の除去速度を1分あたり100mm³とすると、荒加工だけで750分、約12.5時間です。そこに仕上げの時間が加わります。除去速度は、流す電気の大きさと電極の面積で大きく変わり、大きな電極で強い電気を流せる荒加工ほど速く、細かい形や仕上げほど遅くなります。
形彫放電加工の時間を左右する6つの要素
| 要素 | 時間への効き方 |
|---|---|
| 彫る体積 | 取り除く量にほぼ比例して時間が延びる。焼入れ前に切削で荒く取っておけば、放電加工は仕上げの厚みだけで済む |
| 面の粗さ | 細かい面ほど放電を弱くして少しずつ取るため、仕上げの時間が大きく増える。荒い面との差は数倍になることもある |
| 深さ | 深いほど加工くずが抜けにくく、電極を上下させてくずを出す時間が増える。細く深いリブほど遅い |
| 電極の大きさと材料 | 大きな電極ほど強い電気を流せて速い。電極の材料(銅・グラファイトなど)によって、向く電気の大きさや消耗の仕方が違う |
| 電極の本数 | 荒・中・仕上げで電極を替えると、そのたびに付け替えと位置合わせの時間が入る |
| 材質 | 超硬合金や銅系の材料は、鋼より取りにくく時間がかかりやすい |
細穴放電加工の時間は「深さ × 穴の数」
細穴放電加工は、パイプ状の細い電極を回しながら中に加工液を通し、深い穴をあける加工です。1つの穴の時間は、深さを穴あけの速さで割って求め、そこに穴の数を掛けます。穴の数が多い部品では、穴から穴へ移る位置決めや、消耗した電極の交換の時間も積み重なります。
加工時間(分)=(穴の深さ ÷ 穴あけの速さ + 1穴ごとの位置決め・電極交換)× 穴の数
深い穴ほど加工液と加工くずの出入りが悪くなり、穴あけの速さは落ちていく
冷却の穴やノズルの穴のように、同じ穴を何十個、何百個とあける部品は、1穴が短くても全体では長い加工になります。位置と深さの指示が正確に分かる図面があれば、機械にまとめて段取りし、続けてあけられます。細い穴の考え方は細穴放電加工の記事で詳しく解説しています。
計算の例|時間のかかる加工はどれくらいか
計算の流れを示すため、仮の加工速度で計算した例です。実際の時間は、機械・材料・条件で変わります。
| 加工 | 条件(仮の値) | 計算 | 機械を動かす時間 |
|---|---|---|---|
| ワイヤーカット(板厚100mm) | 切る長さ400mm、加工速度100mm²/分、仕上げなし | 400×100÷100 | 400分(約6.7時間) |
| ワイヤーカット(板厚300mm) | 切る長さ400mm、加工速度100mm²/分、仕上げなし | 400×300÷100 | 1,200分(約20時間) |
| 形彫放電加工(深彫り) | 50×50mmを深さ30mm、除去速度100mm³/分、仕上げ4時間 | 2,500×30÷100+240 | 990分(約16.5時間) |
| 細穴放電加工(多数穴) | 深さ50mm、速さ10mm/分、位置決め3分、20穴 | (50÷10+3)×20 | 160分(約2.7時間) |
段取り(材料の据え付け・位置出し・電極の準備)の時間は含みません。大きな型や重い材料ほど、段取りの時間も長くなります。
見積りに使える「自分の加工速度」を残す方法
計算の精度は、式に入れる速さの値で決まります。カタログの値より、自分の工場の機械で実際に加工した記録のほうが、見積りにずっと役立ちます。記録は難しくありません。
- 01加工のたびに3つを書き残す材料と硬さ、板厚か深さ、機械を動かした時間。ワイヤーなら切った長さ、形彫なら彫った面積と深さも書きます。
- 02速さに直すワイヤーは「切った長さ×板厚÷時間」、形彫は「彫った体積÷時間」。荒加工と仕上げは分けて記録すると、次の見積りで使い分けられます。
- 03条件ごとに並べる材料・板厚・面の粗さが近いものどうしで並べると、使える値の幅が見えてきます。
- 04段取りの時間も別に残す据え付け・位置出し・電極の準備にかかった時間を、加工の時間とは分けて書いておきます。1個ものの見積りで効いてきます。
加工時間と費用の関係
放電加工の費用は、大きく分けると「機械を動かす時間」「段取りの手間」「電極などの材料」の3つで決まります。機械を動かす時間が長い加工ほど、費用のうち時間の占める割合が大きくなります。だからこそ、面の粗さや公差を必要な所だけにして、時間を短くする工夫がそのまま費用に効きます。
機械を動かす時間
この記事の式で見積もる部分です。厚物・深彫り・多数の穴では、費用の大きな部分を占めます。
段取りの手間
据え付け・位置出し・電極の付け替え。1個ものほど割合が大きく、同じものを繰り返すほど小さくなります。
電極・材料
形彫放電加工の電極や、ワイヤーの消費。電極の数は、形の複雑さと面の粗さで決まります。
金額の目安は、形と条件で大きく変わるため、当社では図面を拝見してからお出ししています。費用の決まり方は放電加工の費用相場の記事でも詳しく解説しています。
式に入らない時間|段取りと準備
機械を動かす時間のほかに、加工の前後には次のような時間がかかります。1個だけの加工では、加工そのものより段取りの時間が長いこともあります。逆に、一度の段取りで長く加工する仕事ほど、段取りの時間の割合は小さくなります。
- 据え付け:材料や型を機械に載せ、動かないように固定する
- 位置出し:基準の面や穴を測り、加工する位置を合わせる
- 電極の準備:形彫放電加工の電極を作る・取り付ける・芯を出す
- スタート穴:ワイヤーを通す穴を先にあける
- 途中の確認:厳しい公差の部品は、加工の途中で寸法を確かめる
- 仕上がりの検査:機上やゲージで寸法を確かめる
時間のかかる加工ほど、外注の効果が大きい
計算してみて、機械を何十時間も動かす加工だと分かったら、その間に止まるほかの仕事のことも考えてみてください。社内の放電加工機が1台か2台なら、厚物のワイヤーカットや深い彫り込みを1つ受けるだけで、数日間ほかの急ぎの仕事を回せなくなります。時間のかかる加工だけを外へ出せば、社内の機械は短い仕事と急ぎの仕事に使えます。
形彫7台・ワイヤー1台
複数の機械で、長い加工と急ぎの加工を並べて進めます。大型の形彫放電加工機は3台あります。
大きな材料が載る
形彫は最大で幅1,200×奥行800×高さ450mmの加工範囲、型は高さ1,300mm・重さ約2,000kgまで。ワイヤーはZ軸300mmです。
土曜・祝日も稼働
土曜・祝日も機械を動かし、日曜は緊急時に対応します。長い加工でも、日程を詰めて進められます。
加工時間を短くする、図面と段取りの工夫
| 工夫 | 短くなる理由 |
|---|---|
| 面の粗さを必要な所だけ細かくする | 仕上げの回数と時間は、面を細かくするほど増える。機能に効かない面は粗くてよい |
| 荒い形は切削で先に取る | 放電加工は取る量に比例して時間がかかる。焼入れ前に削れる所は削っておく |
| 厳しい公差を必要な寸法だけにする | 全体を厳しくすると、仕上げと途中の確認が全体に広がる |
| 同じ形の部分をそろえる | 形彫なら同じ電極で何か所も彫れ、ワイヤーなら同じ条件で続けて切れる |
| 複数の部品を重ねて切る | 薄い板のワイヤーカットは、重ねて一度に切れば段取りが1回で済む |
| スタート穴の位置を指定する | ワイヤーの入り口を製品に影響のない位置にでき、余分な加工が減る |
時間と費用の見積りに必要な情報
次の情報が分かると、加工時間と費用の見当を早くお伝えできます。分かる範囲で構いません。
- 図面か3Dデータ:形と寸法
- 材質と硬さ:焼入れの有無
- 板厚・深さ:切る厚み、彫る深さ
- 面の粗さと公差:厳しくしたい箇所
- 数量:1個か、繰り返しか
- 希望の納期:いつまでに必要か
ご相談から納品までの流れ
- STEP 01図面・写真を送るフォームかメールで、図面・3Dデータ・写真をお送りください。
- STEP 02可否と時間の見当営業時間内なら当日中に、加工できるかと進め方をお返しします。
- STEP 03見積り・日程の確定機械の空きと加工時間から日程を組み、正式なお見積りをお出しします。
- STEP 04加工・検査・出荷機上で寸法を確かめてから出荷します。
よくあるご質問
ワイヤーカットの加工時間は、どう計算しますか?
切る長さに板厚を掛けて切る面積を求め、それを加工速度(1分あたりに切れる面積)で割ります。面を細かく仕上げる場合は、仕上げの回数ぶんの時間を足します。加工速度は機械・材料・条件で変わるため、実際に切った記録の値を使うのが確かです。
厚さ300mmの材料もワイヤーカットできますか?
当社のワイヤー放電加工機はZ軸300mmまでの材料に対応し、厚さ300mm近い材料を切った実績があります。厚いほど加工時間は長くなり、形によっては精度の出し方に工夫が要るため、図面を拝見して進め方をお答えします。
形彫放電加工の時間は何で決まりますか?
主に、彫る体積と、求める面の粗さで決まります。荒加工で大部分の体積を取り、仕上げで面を細かくします。深い形や細いリブは加工くずが抜けにくく、時間が延びます。焼入れ前に切削で荒く取っておくと、放電加工の時間を短くできます。
カタログの最大加工速度で見積もってもよいですか?
おすすめしません。カタログの値は、特定の材料・板厚・条件での最高値です。実際の加工では、精度や面の粗さに合わせて条件を選ぶため、遅くなるのがふつうです。
夜や週末も加工を進められますか?
土曜・祝日も機械を動かしており、日曜は緊急時に対応します。長い加工は、機械の空きと合わせて日程を組みます。
加工時間の見積りだけでも頼めますか?
お受けします。図面か3Dデータと、材質・数量・希望の納期をお送りください。加工できるかどうかと進め方を、営業時間内なら当日中にお返しします。
あわせて読みたい
何十時間もかかる加工こそ、ご相談ください。
図面か写真をお送りいただければ、加工できるかどうかと進め方を、営業時間内なら当日中にお返しします。厚物のワイヤーカットや深い彫り込みは、機械の空きを見て日程をお出しします。

