「超硬合金やタングステンの部品を加工したいが、対応してくれる工場が見つからない」——このご相談は、当社にお寄せいただくお問い合わせの中でも上位を占めます。
超硬合金やタングステンは、HRC70〜90以上という極めて高い硬度を持つため、通常の切削加工では刃物が持ちません。しかし、放電加工であれば硬度に関係なく、ミクロン単位の精度で加工が可能です。
この記事では、超硬・タングステンの加工が難しい技術的な理由と、放電加工がなぜその課題を解決できるのかを解説します。
超硬合金・タングステンとは
超硬合金(Cemented Carbide)
超硬合金は、タングステンカーバイド(WC)の微細粒子をコバルト(Co)やニッケル(Ni)などのバインダー金属で焼結した複合材料です。
- 硬度:HRA(ロックウェルA)で85〜93程度。HRCに換算するとHRC70〜90以上
- 特徴:極めて高い硬度と耐摩耗性を持つ一方、靭性(粘り強さ)は鋼に劣り、衝撃で割れやすい
- 用途:金型(プレス型、絞り型)、切削工具、耐摩耗部品、測定用ゲージ
純タングステン(Pure Tungsten)
タングステンは融点が3,422℃と全金属中最高で、高温でも強度が低下しにくい金属です。
- 硬度:HV300〜500程度(超硬合金ほどではないが、展延性が極めて低い)
- 特徴:高融点、高密度(19.3g/cm³で金とほぼ同じ)、脆い
- 用途:半導体製造装置部品、放射線遮蔽材、電気接点、ヒーター
切削加工で難しい4つの技術的理由
理由①:硬度が高すぎて刃物が摩耗する
超硬合金の硬度はHRC90に達することがあり、これは切削工具そのものの材質と同等以上の硬さです。「硬いものを硬いもので削る」状態になるため、工具が急速に摩耗し、実質的に加工できない状態になります。ダイヤモンドコーティング工具を使えば一部の加工は可能ですが、工具コストが非常に高くなります。
理由②:脆くて割れやすい
超硬合金もタングステンも靭性が低く、衝撃に弱いという特性があります。切削加工では工具がワークに断続的に接触するため、切削力による衝撃でワークがチッピング(欠け)や割れを起こすリスクが高くなります。
理由③:加工熱の管理が困難
超硬合金は熱伝導率が鋼に比べて高いものの、切削加工時の局所的な発熱は避けられません。タングステンは室温では脆いですが高温では変形しやすくなる特性があり、加工中の温度管理が難しいという問題があります。
理由④:加工できる形状が限られる
仮にダイヤモンド工具で切削可能であっても、複雑な3次元形状、深い止まり穴、鋭いコーナーなどは工具のアクセスや剛性の制約で加工できないことが多くなります。
放電加工が超硬・タングステンに有効な理由
放電加工は、これらの鍵となる課題をすべて解決します。
硬度は関係ない
放電加工は電気の放電エネルギーで金属を溶融除去するため、ワークの硬度は加工の可否に影響しません。HRC90の超硬合金も、HRC20の軟鋼も、同じ原理で加工できます。必要な条件は「電気を通すこと(導電性があること)」だけです。超硬合金もタングステンも導電性を持つため、問題なく放電加工が可能です。
非接触加工で割れを回避
放電加工は電極とワークが直接接触しない非接触加工です。切削力がゼロのため、脆い超硬合金でもチッピングや割れのリスクが極めて低い状態で加工できます。
複雑形状にも対応
形彫放電加工であれば、電極の形状をワークに転写する原理のため、3次元の自由な形状・深穴・止まり穴・鋭いコーナーも加工可能です。切削工具のアクセス制約を受けません。
超硬加工における電極選定のポイント
超硬合金の放電加工では、電極材質の選定が加工品質を大きく左右します。
| 電極材質 | 特徴 | 適した用途 |
|---|---|---|
| 銅タングステン(CuW) | 電極消耗が少なく、高精度仕上げ向き | 超硬合金の仕上げ加工、微細加工 |
| 銀タングステン(AgW) | 銅タングステンより導電率が高く、消耗が少ない | 超硬合金の精密加工、電極消耗を最小化したい場合 |
| 銅(Cu) | 汎用的で入手しやすい。加工性が良い | 一般的な鋼材の形彫。超硬には消耗が大きくなる場合あり |
| グラファイト | 大型電極の製作が容易。荒加工に強い | 大面積の荒加工。超硬には条件設定に注意が必要 |
超硬合金の放電加工では、銅タングステンまたは銀タングステン電極を使用するのが一般的です。これらの電極材は通常の銅電極より消耗が少なく、安定した加工面を得ることができます。
ただし、銅タングステンや銀タングステンの電極材は在庫を持たない工場も多いのが実情です。当社では、超硬加工の受注に備えて銅タングステン・銀タングステン電極材を常時ストックしています。
超硬・タングステン加工で放電加工を依頼する際の注意点
- 材質の正確な種別を伝えてください(例:超硬V20、V30、バインダーレスなど)。バインダー(Co)の含有率によって加工条件が変わります
- 割れ防止のため、鋭い角部にはRやC面を設けることを推奨します。設計段階でご相談いただければ、加工性を考慮したアドバイスが可能です
- 超硬合金は放電加工後の表面に白層(再鋳造層)が生じます。白層の除去が必要な場合はラップ加工等の後工程が必要になるため、事前にご相談ください
まとめ
超硬合金やタングステンは、切削加工では「硬すぎて削れない」「割れてしまう」という根本的な課題がありますが、放電加工であれば硬度に関係なく、非接触で、高精度に加工可能です。
当社ギャップ・イーディーエム(GAP.EDM)は、超硬合金の放電加工を40年以上にわたって手がけてきた専門工場です。銅タングステン・銀タングステン電極の常備、超硬加工に最適化した加工条件データベースの蓄積により、安定した品質をお約束します。


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